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東京高等裁判所 昭和52年(う)1492号 判決 1978年1月31日

被告人 八島輝雄 藁谷寛

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

被告人両名に対し、当審における未決勾留日数中各二〇〇日を原判決の各本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人太田惺が差し出した控訴趣意書、控訴趣意補充書及び被告人藁谷寛が差し出した控訴趣意書(ただし、(一)を除く)に、これに対する答弁は、検察官提出の答弁書にそれぞれ記載してあるとおりであるから、これらを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断する。

第一、被告人藁谷の控訴趣意(五)(公訴提起の無効の主張)について

所論は要するに、南雲克行ら警察官四名は、南雲克行が被告人両名から暴行を受け公務の執行を妨害されたとの虚構の事実を造りあげ、被告人両名を違法に逮捕したものであり、このことは同人ら警察官三名の原審各証言によつて暴露されているのであつて、このような違法逮捕に基づく本件起訴は当然無効であるから、原判決は破棄されるべきであるというのであるが、証人南雲克行は原審公判廷において、夜間、ナンバー燈をつけないで運転していた被告人両名が乗つていた自動車に不審をいだき、これに停止を命じて職務質問をした際、被告人両名は所持するリユツクの中味を見せることを拒んだうえ、逃げる気配を示し、同証人が更にその開披を求めるため二人の前に両手を広げて立ちはだかり阻止するや、二人して二、三回肩で同証人にぶつかつて来たと供述しているのであつて、その供述は評細かつ具体的で首尾一貫しており、証人清水久雄、同内堀登美雄の原審公判廷における各供述とも矛盾するところはなく、十分信用できるものと認められるから、南雲克行ら警察官四名が被告人両名を公務執行妨害の現行犯人として逮捕したことは至極当然のことであつてなんら違法の廉はなく、所論はその前提を欠き失当というほかはない。論旨は理由がない。

第二、弁護人の控訴趣意第一点、被告人藁谷の控訴趣意(二)(事実誤認、理由不備の主張)について

各所論は要するに、原判示の「罪となるべき事実」が仮りに認められるとしても、被告人両名の本件行為は当時の天皇訪米という政治状況下において過去の天皇制の果した歴史的過誤と、被告人らの置かれていた弱者の立場を考慮するならば、被告人らに他に適法な行為に出ることを期待することは不可能であるのに、原判決がこれらの事実につき違法性も責任も欠くものでないことは社会通念上明らかであると判示しているのは事実を誤認したものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、またこの点に関して原判決には理由を付していない違法があると主張するものである。

しかしながら、原判決挙示の各証拠によれば、原判示の「罪となるべき事実」は優にこれを認めることができるところ、これらの犯行は極めて過激かつ危険な行為であつて、これにいかなる理由を付してもその合理性を認めることはできず、現行法秩序のもとでは到底許容されないものであるから、原判決がこれらの行為につき前示のように判示しているのは十分首肯し得るところであり、原判示になんらの事実誤認はなく、また理由不備の違法も存しない。論旨は理由がない。

第三、被告人藁谷の控訴趣意(四)(事実誤認の主張)について

所論は要するに、原判決はその「罪となるべき事実」の冒頭において、「被告人八島及び同藁谷は、……革命運動を目的としてグループを形成し、……革命のためにはその前段階として大衆の動きを起すための刺戟となるべき武装闘争が必要であるとの考えを持ち、また、天皇は中国人、朝鮮人等のアジア人民に対し太平洋戦争の戦争責任を負つているのに何らこれを果たしていない等との強い批判的意見を抱いていたものであるところ、……天皇訪米阻止の意思表明のために爆弾闘争が必要であるとの考えを有するに至つた。」と認定しているが、右認定は人の思想を処罰するものであるから憲法一九条に違反する無効なものであるとともに、右事実を認定すべき証拠も存在しないから、原判決の認定には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。

よつて検討するに、被告人藁谷の司法警察員及び検察官(昭和五〇年九月一二日付)に対する各供述調書、被告人八島の検察官に対する昭和五〇年九月一四日付、同月二一日付、同年一〇月四日付各供述調書等によれば、前記の事実は優にこれを認定することができるのであつて、原判決には所論のような事実誤認はなく、また原判決が所論のように被告人らの思想を処罰しているものでないことは判文自体に徴して明らかであるから、原判決はなんら憲法一九条に違反するものではない。論旨はいずれも理由がない。

第四、弁護人の控訴趣意第二点、被告人藁谷の控訴趣意(三)(法令適用の誤りの主張)について

所論は要するに、爆発物取締罰則は太政官布告であつて、その成立手続において憲法三一条、七三条六号但書に違反し無効であるうえ、同罰則三条はその目的に関する概念が極めて不明確であり、かつ法定刑も著しく重く、罪刑法定主義を定める憲法三一条、残虐な刑罰を禁止する同法三六条に違反し無効であるから、原判示の各事実につき同罰則三条を適用した原判決には法令の解釈、適用に誤りがあつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのであるが、爆発物取締罰則の制定、存続に関し、また同罰則三条に所論のような憲法違反のないことは既に幾多の最高裁判所の判例(<イ>残虐な刑罰でないことにつき―昭和二三年六月三〇日大法廷判決・刑集二巻七号七七七頁、<ロ>同罰則の効力につき―昭和三四年七月三日第二小法廷判決・刑集一三巻七号一〇七五頁、<イ>、<ロ>及び犯罪構成要件が不明確でないことにつき―昭和四七年三月九日第一小法廷判決・刑集二六巻二号一五一頁、昭和五〇年四月一八日第二小法廷判決・刑集二九巻四号一四八頁等参照)の示すところであつて、論旨はいずれも理由がない。

第五、弁護人の控訴趣意第三点(法令適用の誤りの主張)について、

所論は要するに、原判示第一の(三)の爆発物の製造罪と同第二の所持罪とは包括一罪と解すべきであるのに、原判決がこれを併合罪として処断したのは法令の解釈・適用を誤つたものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのであるが、爆発物取締罰則は、爆発物による公共危険の発生を未然に防止するため、爆発物の製造、所持、使用等の各段階においてこれらをそれぞれ別個、独立に規制しようとするものと解せられるから、製造に当然随伴して一時的に所持するに過ぎないような場合は格別、製造した場所から持ち出して建物爆破の目的地に向うためこれを運搬していたという本件は、その所持に独自性を認めて然るべき場合であるから、右所持罪が製造罪に包括あるいは吸収されるものと考えるべきではなく、両者は併合罪の関係にあるものと解するのが相当である。原判決には所論のような法令の解釈、適用の誤りはなく、論旨は採用できない。

第六、弁護人の控訴趣意第四点(量刑不当の主張)について

所論は要するに、仮に被告人両名が本件について有罪であるとしても、原判決の被告人両名に対する量刑は重きに過ぎて不当であるというのである。

よつて検討するに、原審記録によれば、本件は被告人両名が稲葉昌生、山本道有、小松慶子と共に、昭和五〇年九月の天皇訪米に際し、これを阻止する意思を表明するため爆弾により皇室関係の施設を爆破することを計画し、周到、綿密な謀議をこらして各自の役割分担を定め、爆破すべき施設(宮内庁新浜及び埼玉の鴨場の建物)の下見や爆破実験を重ねたうえ、消火器爆弾二個、ペール缶爆弾一個を製造し(判示第一の(一)ないし(三)の事実)、爆破予定地に赴くため右ペール缶爆弾一個を所持していた(同第二事実)ところを警察官に発見されたという事案であつて、右犯行の目的、方法の計画性、組織性及び製造した爆弾の数量、性能、危険性の程度にかんがみ、被告人らの犯行は、過激かつ極めて危険な行為というべきであり、加えて右消火器爆弾二個が誤つて爆発し、このため前記共犯者三名が爆死したほか一般の市民二名がその巻添えで貴重な生命を一瞬にして奪われたという悲惨な結果の発生したことも無視できないのであつて、更に被告人藁谷については、右犯行当時、東京地方裁判所において兇器準備集合、公務執行妨害、威力業務妨害各被告事件により審理を受けていたこと(昭和五一年一月二九日同裁判所において右各罪により懲役一年六月、三年間刑の執行猶予の判決宣言があつた。)をも考え合わせると、被告人両名の刑責はまことに重大であるといわざるを得ない。

もつとも被告人らは、本件爆弾によつて鴨場所在の建物を破壊することを意図し、人身に対して危害を及ぼすことを避ける考えでいたところ、前記のような事故が発生して多大の被害を生じさせたことに驚き、とくに被告人八島においてはこれを反省して捜査官憲に対し、本件各爆弾製造の経緯等の事実を詳細に自白したことが認められるのであり(もつとも、原審公判の段階においては、その真意はともかく、極めて反抗的態度に終始したことは遺憾である。)、また被告人藁谷については、本件犯行の過程において被告人八島や前記稲葉に比し、従属的な立場にあつたことが窺われるのであつて、これら諸点のほか更に諸般の情状をも合わせて被告人両名のためいかに有利に斟酌してみても、原判決が被告人八島を懲役一〇年に、被告人藁谷を懲役八年にそれぞれ処したのはまことにやむを得ないところと認められるのであつて、原判決の量刑が重きに過ぎて不当であるとは考えられない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴をいずれも棄却し、被告人両名に対し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中各二〇〇日を原判決の各本刑にそれぞれ算入することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部一雄 山本寛 中川隆司)

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